Survivor's guilt【プロローグ】


London Bridge is falling down, 

Falling down, Falling down. 

London Bridge is falling down,

My fair lady.


「仲間にいれーて」


楽しげな子供特有の甲高い笑い声と歌声に交じる言葉。言葉を発した主はニコニコと満面の笑みを浮かべている。歌を発していた集団もニコニコと笑を絶やさない。そして、声を発した主の言葉が分からないと言った風に皆首を傾げた。

声の主は再び声を上げる。


「仲間に、入れて」


クスクスと耳障りな笑い声が周りから何処からともなく響いてくる。声の主は笑みを絶やさない。周りの子供も絶やさない。集団の中から声が聞こえた。

Set a man to watch all night.

寝ずの見張りをたてようか。

その節を皮切りに集団は声の主を囲む。楽しげなリズムにのって歌詞が進んでいく。声の主は笑う。集団は笑う。

歌の最後に手でつくったアーチをおろしてひとりを選ぶゲームを集団はしていた。そのゲームが何を意味するのか声の主は知らない訳では無い。無邪気の裏に隠された悪意と憎悪を知らない訳では無い。


あぁ、やっと許される。


声の主は嬉しそうに12小節の歌詞がしりとりのようにつながっていく単純な繰り返しという作業をする。簡単な歌詞が子供に好まれ安いのだろう。声の主は心地よい闇に落ちて行く感覚を覚えた。何も考えなくて良い。これで、もう罪に苛まれる事はないと楽しげに声の主はアーチを描く腕の中に入ろうとした。

最後の歌詞が歌われる。


「何勝手に許されようとしてるの?」


声の主は急な事で思考が追いつかなかった。後ろから手首を捕まれそして、押し倒される。声の主がよく知る人物が声の主のマウントをとった。更にその人物は声の主の首に手を持っていく。

集団の子供達はわざとらしく甲高い耳障りな声を上げて散りじりに去っていく。その声にはやはり悪意と憎悪、加えて毒念が含まれているのが手に取るように分かる。集団は声の主を都合の良い生贄としか思っていなかった。人柱としか思っていなかった。ただの馬鹿な奴としか思っていなかった。だけど、それでも声の主は良かったのだ。許された、その言葉が欲しかったから。

けれど、声の主の上に乗りギリギリと首を締め始めた人物は許してくれなかった。声の主が一番に許されたく、そして、目を逸らしたい人物だ。


「ねぇ、誰が許したの?ねぇ、言ってみてよ。誰が君を許してあげたの?」


ニタリと薄気味悪く笑う人物を声の主はこの世界では何度も見た。泣きたくなる声の主は意識が朦朧として行く。

脳に酸素が回らない。

この世界では窒息なのだなとボンヤリと主は思いをはせた。この前はこの人物に背中を押され頭を押さえつけられ溺死した。その前は何度も腹を刺された。

それ程までにこの人物は自分を許してくれないのだと薄れゆく世界で思考をやめた。


「誰もお前なんか認めない。生きてるお前の罪を教えてあげる」


罪なんかとっくの前に理解してる。言われなくたって分かってる。主はそこでこの世界でのゲームオーバーを迎えた。

可笑しなことにコンテニューが出来る世界なのだ。何故か?簡単な事だ。これは主の


「また、この夢か…」


主は涙を流す。天井から垂れる縄はブラリと揺れており、途中で引っ掛けていたモノの重さに耐えきれなくなりブツリ音をたてて切れた。主は首に赤黒くあとを残した縄を怠さが残る体を動かし取った。ボンヤリと主は窓を見る。


『大丈夫。死んだ星は流れ星になって誰かの願い事になるんだ。』


許してくれない君の言葉が脳内に警報のように鳴り響く。煩く鳴り響くこの声は、星になる事に失敗したせいでなっているのだ。酸素が脳に回らないから苦しいのだ。だから、涙が、嗚咽が止まらないのだと言い訳をする。


「僕の罪は、生きてることだろ…」


教えてくれると言った罪を自分で呟いた。呟いた言葉が耳に入ってくるとそれはそれは辛いものだと身にしみる。生きている事が罪だと言うのに、まるで罰の様に星になる事が許されない。この矛盾めいた問題に静かに啼泣する。


「あぁ、今日も星が遠い」


キラリと光る星が憎らしかった。